御神木

hinakichi
2021年11月6日

 実家が今の古民家を改築して引っ越してきた当時、家のすぐ裏に小高い丘があり、数本の木が立っていた。今にも崩れそうで危険だから撤去を土地の所有者にお願いしようとしたところ、中心に立っている木がこのへんの住人たちにとっては手を合わせたりするご神木なので、なんとか残してほしいと頼まれた。しかし、木を倒さないまでも崩れないようにネットを張るなどガードするように検討をお願いしていたところで暴風雨に見舞われとうとう一本家の屋根に倒れてきてしまったのだ。結果的に土地の所有者はご神木を含めた殆どの木を切り倒した。仕方のないことだったと思う。

 さて、露になった丘に裂け目が見えた。覗くと中は空洞になっている。裂け目より下は砂利で埋まっている。この辺に詳しい方の話では、これはどうやら防空壕であるとの事だった。こんなに身近に防空壕なるものが当たり前に存在していることに驚いてしまった。急にかつての戦時中の人々の日常と自分の日常が地続きになったのだ。姉に話すと、子供の頃防空壕で遊んだよね、という。記憶はないのだが、昔はそういったことが日常だったかもしれない。ご神木は無くなり、防空壕もいずれ完全に埋まるか撤去されてなくなるだろう。そういった土地の記憶が風化するかわりに、私の中でリアルに刻まれた。